「もしも」の後、スマホが開けないと何が起きるか

もしもあなたや親が突然入院したり、亡くなったりしたら、家族は真っ先にスマートフォンを開こうとします。銀行の連絡先も、契約しているサービスの一覧も、今はほとんどがスマホの中にあるからです。

ところが、画面ロックが解除できないと、そこから先に一歩も進めません。契約しているサブスクリプションが何なのか分からない、解約の連絡先すら分からない、という状態のまま、クレジットカードからは毎月の請求が引き落とされ続けます。国民生活センターも2024年11月に「デジタル終活」をテーマにした注意喚起を発表しており、めずらしいケースではなくなっています。

これは高齢の親だけの話ではありません。動画配信、音楽配信、クラウドストレージ、ジムの予約アプリまで、現役世代ほど契約しているサブスクの数は多く、本人しか把握していない「見えない契約」が積み上がりがちです。さらに暗号資産(仮想通貨)を自己管理型ウォレットで保有している場合、秘密鍵やパスワードが分からなければ、家族が資産の存在に気づくことすらできず、そのまま失われてしまう可能性もあります(取引所に預けている場合は、本人確認書類等をもって相続手続きができるケースもあります)。

「デジタル終活」とは、こうした事態を防ぐために、自分のデジタル資産を整理し、いざというときに家族が困らない状態を作っておく準備のことです。難しく聞こえますが、やることは大きく4つのステップに分けられます。

正直に言うと、私自身もこの「デジタル終活」を完璧にこなせているわけではありません。サブスクの管理については、専用のスプレッドシートで「見える化」する運用を続けています(具体的なやり方はサブスク値上げの見直し術で紹介した方法と同じです)。こうして契約状況を把握しておくだけでも、いざというときに家族が頼れる情報の土台になります。

一方で、頭を悩ませているのが両親のデジタル終活です。両親はスマートフォンを使い始めてからまだ日が浅く、契約一覧の作成やパスワード管理を本人たちに任せるのは、正直なところ現実的ではありません。50代で独身の私にとって、いずれ自分が両親の分まで整理を手伝う日が来ることは分かっていながら、まだ具体的な行動には移せていないのが今のところの実情です。つまりデジタル終活は「誰かがやってくれるはず」の他人事ではなく、私自身にとっても、いまだ道半ばの課題なのです。だからこそ、完璧を目指すのではなく、できるところから一歩ずつ進めていくという姿勢が大切だと感じています。

ステップ1: デジタル資産の一覧を作る

最初にやるべきことは「自分が何を契約し、何を持っているか」を洗い出すことです。頭の中だけで把握しているつもりでも、いざ書き出してみると忘れている契約が必ず出てきます。

洗い出す対象は、主に次の4種類です。

分類具体例
サブスクリプション動画配信、音楽配信、クラウドストレージ、新聞・雑誌の電子版、ジム・習い事アプリ
金融関連ネット銀行、ネット証券、クレジットカードの明細アプリ、暗号資産取引所
通信・インフラスマホ契約、Wi-Fi、各種サブスク型の保険
SNS・アカウントX、Instagram、LINE、メールアドレス、クラウドの写真データ

一覧を作るときのコツは、クレジットカードの明細を1〜2か月分さかのぼって確認することです。毎月引き落とされている項目を一つひとつ確認していくと、「これ、もう使っていないのに契約したままだった」というものが意外なほど見つかります。この一覧作成自体が、家計の見直しにもつながる副次効果があります。

ステップ2: パスワードを記録する(ただし書き方に注意)

一覧ができたら、次はログイン情報の記録です。ここで多くの人が「紙のノートに全部書いておけばいい」と考えがちですが、これにはリスクがあります。ノートを紛失したり、誰でも見られる場所に置いてしまったりすると、生きている間に悪用される危険があるからです。

おすすめは、パスワード管理ツールを1つに集約することです。Bitwardenには後述する「緊急アクセス機能」が備わっており、デジタル終活との相性が良いためです(1Passwordには同様の自動アクセス権限付与機能はありませんが、代わりにマスターパスワードなどを記録した「Emergency Kit」というPDFを発行し、安全な場所に保管しておく仕組みが用意されています)。

パスワード管理ツールを使う場合、家族に遺すべき情報は次の1点に絞られます。

  • パスワード管理ツール自体の「マスターパスワード」と、ログインに使うメールアドレス

このマスターパスワードだけを、封筒に入れて金庫や貸金庫に保管する、あるいは弁護士や信頼できる家族に預けておくといった方法をとれば、個別のサービスのパスワードをすべて紙に書き出す必要がなくなります。管理する情報を1つに絞ることが、安全性と実用性を両立させるコツです。

ステップ3: 不要なサービスを解約する

一覧を作り、パスワードを整理したら、このタイミングで「今は使っていないサービス」を実際に解約してしまうことを強くおすすめします。

理由は2つあります。1つは、単純に毎月の支出が減ること。もう1つは、家族に引き継ぐべき情報の量そのものを減らせることです。契約が10件あるより3件のほうが、いざというときに家族が把握しやすいのは当然です。

解約するかどうかの判断基準はシンプルです。

  • 直近3か月、一度もログインしていないサービスは解約を検討する
  • 似た機能のサービスを2つ以上契約している場合は、どちらか1つに絞る
  • 無料期間だけのつもりで登録し、そのまま有料化していたものがないか確認する

サブスクの整理は「デジタル終活」の入り口であると同時に、生きている間の家計改善にも直結します。一石二鳥の作業だと考えて、年に1回はこの棚卸しを行う習慣をつけておくと安心です。

ステップ4: 家族と共有する

一覧を作り、パスワードを整理し、不要な契約を解約したら、最後のステップは「その情報がどこにあるかを家族に伝えておく」ことです。ここで注意したいのは、パスワードそのものを家族に教える必要はない、という点です。

伝えるべきなのは、次の3つだけです。

  1. デジタル資産の一覧表を、どこに保管しているか
  2. パスワード管理ツールのマスターパスワードを、どこに保管しているか(封筒・金庫・弁護士など)
  3. 暗号資産を保有している場合、その取引所名と大まかな連絡先

これだけを共有しておけば、実際にパスワードを日常的に知られる心配をせずに、もしものときだけ家族がたどり着ける状態を作れます。「元気なうちに全部教えておく」のではなく、「いざというときにたどり着ける道筋だけを示しておく」というのが、デジタル終活における家族共有の考え方です。

パスワード管理ツールの「緊急アクセス機能」を使う

Bitwardenなど一部のパスワード管理ツールには、あらかじめ指定した家族や信頼できる相手に、一定の待機期間を経てアカウントへのアクセス権を渡せる「緊急アクセス(Emergency Access)」という機能が用意されています。

仕組みはおおむね共通しています。

  • 家族の一人を「緊急連絡先」として登録しておく
  • その人がアクセスをリクエストすると、本人に通知が届く
  • 一定期間(数日〜1週間程度)本人からの拒否がなければ、自動的にアクセス権が付与される

この機能を使う最大のメリットは、マスターパスワードそのものを事前に教えなくて済む点です。本人が生存していて、なりすましの操作であれば期間内に拒否できるため、悪用のリスクを抑えながら、もしものときの引き継ぎ経路を確保できます。設定は各サービスの「アカウント設定」や「セキュリティ設定」の中にあるので、パスワード管理ツールを導入したタイミングで、あわせて設定しておくとよいでしょう。

なお、1Passwordにはこの自動アクセス権限付与の仕組みはありません。代わりに、マスターパスワードや秘密鍵などログインに必要な情報をまとめた「Emergency Kit」というPDFを発行できるので、これを印刷して金庫や貸金庫に保管しておくのが、1Password利用時の基本的な引き継ぎ方法とされています。

ただ、紙には紙の弱点があります。私自身も1Passwordを使っていてEmergency Kitは発行済みですが、印刷はせず、データのまま保管しています。紙は紛失の可能性があり、そこに不安が残るからです。データで持っておけば、PCが壊れてもスマホから取り出せます。

ただしこのやり方には別の穴があります。保管先のアカウントに家族が入れなければ、結局たどり着けません。 そこを伝えておく必要がある、と考えているところです。

紙にするかデータにするかは、どちらが正解というものでもありません。ただしデータで持つ場合、保管先のアカウント自体が破られると元も子もないので、そのアカウントを2段階認証で固めておくことが最低条件になります。そのうえで大事なのは、置き場所そのものより、家族がそこへたどり着ける道筋を伝えてあるかどうかです。

デジタル終活チェックリスト

最後に、今日から始められるチェックリストをまとめます。

  • クレジットカードの明細を2か月分さかのぼり、契約中のサブスクを洗い出した
  • 銀行・証券・暗号資産取引所など、金融関連のアカウントを一覧にした
  • パスワード管理ツールを導入し、ログイン情報を1か所に集約した
  • 直近3か月使っていないサービスを解約した
  • 緊急時の引き継ぎ設定(Bitwardenの緊急アクセス機能、または1PasswordのEmergency Kitの保管)を済ませた
  • デジタル資産の一覧表とマスターパスワードの保管場所を、家族の誰か1人に伝えた

すべてを一度にやろうとすると気が重くなりますが、まずは「クレジットカードの明細を見返す」ところからで十分です。デジタル終活は、亡くなった後の家族のためだけでなく、契約の棚卸しによる支出の見直しや、パスワードの使い回しをやめるきっかけにもなります。特別なことではなく、家計や身の回りの整理の延長線上にある習慣として、少しずつ手をつけてみてください。

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