「そろそろ話さないと」と思いながら、また今年も帰ってしまう前に

親が70代、80代にさしかかると、頭の片隅に「相続」「介護」「もしものこと」という言葉がちらつき始める。とはいえ、実家に帰ってもいざ顔を合わせると、天気の話や近況報告で終わってしまい、肝心の「お金の話」は結局切り出せないまま東京や地元に戻る――。そんな年を何度も繰り返している人は少なくないはずだ。

2026年のお盆休みは8月13日(木)から16日(日)までの4連休になる予定で、多くの家庭で帰省と親族の集まりが重なる。兄弟姉妹が揃うタイミングでもあるため、「一年のうちで最も話を切り出しやすい機会」と言える。この記事では、なぜお盆に話すべきなのか、どう切り出せばいいのか、そして限られた滞在時間で最低限確認しておきたい5つのことを整理する。

なぜ「親が元気なうち」に話す必要があるのか

多くの人が「まだ大丈夫」「縁起でもない」と後回しにしてしまうが、親のお金の話を先送りにすることには、想像以上に具体的なリスクがある。

まず知っておきたいのが、金融機関が親の死亡の事実を把握した時点で、銀行口座は凍結されるという事実だ。死亡届を役所に提出しただけでは自動的に凍結されるわけではないが、金融機関側が新聞のお悔やみ欄や親族からの連絡などで死亡を知ると、口座は凍結される。凍結されると、たとえ家族であっても、相続手続きが完了するまで原則として自由にお金を引き出せなくなる。葬儀費用や当面の生活費をその口座に頼っていた場合、遺族が一時的に資金繰りに困るケースは珍しくない(なお、2019年からは遺産分割前でも1金融機関につき上限150万円まで単独で払い戻せる制度もある)。

さらに厄介なのが、「どの銀行に、どの口座があるのか」を家族が把握していないケースだ。通帳やキャッシュカードが見当たらない、ネット銀行しか使っていなかった、といった場合、相続人は金融機関を一件ずつ問い合わせて探し回ることになる。これには数か月単位の時間がかかることもあり、精神的にも体力的にも大きな負担になる。

つまり「親のお金の話」は、親のためであると同時に、残される家族自身を助けるための準備でもある。この視点を持つと、話を切り出すハードルが少し下がるのではないだろうか。

筆者自身も、父が72歳、母が74歳とまだ健在で、介護が必要な状態には至っていない。ただ、その時期が着実に近づいてきていることは感じている。なお、その介護に実際いくらかかるのか、実家がどこまで準備できているのかについては、親の介護費用、実家はいくら準備できているのかで別途調べている。

そのことを強く実感したのが、墓じまいの一件だった。子である筆者が言い出したわけではなく、両親が今後のことを自分たちで考えて動いてくれた。しかも、両親自身のための永代供養まで用意してくれていた。筆者がそれを知ったのは、すべてが済んだあとの報告を受けたときだ。お墓の清掃などの維持管理から解放されたのは事実で、素直にありがたいと思っている。

ただ、正直に書けば、筆者はこの件で何ひとつ動いていない。費用がいくらかかったのかも、どういう経緯でその形に落ち着いたのかも、まったく把握していない。助かったはずなのに、中身は何も知らないまま「終わったこと」になっている。この「ありがたいけれど、知らない」というねじれこそが、この記事で扱いたいテーマそのものだ。

つまり、親が自発的に動いてくれる家庭であっても、子の側が把握できていないという状態は変わらない。むしろ「親がやってくれたから大丈夫」という安心感がある分、あらためて中身を確認する機会を失いやすいとも言える。

切り出し方のコツ:「相続の話」ではなく「安心のための確認」として

いきなり「もし死んだらどうする?」と切り出すと、親は身構えてしまい、会話が続かないことが多い。効果的なのは、次のような角度から入ることだ。

ポイント1:自分の話から始める

「私も最近、自分の口座やNISAの整理を始めたんだけど」というように、まず自分自身の話として切り出すと、親も身構えずに話に乗りやすくなる。「お互いに」という空気を作ることが大切だ。

ポイント2:ニュースや制度改正を話題にする

「最近、相続の手続きが大変だってニュースで見た」「マイナンバーと口座の紐付けが進んでいるらしい」など、時事的な話題を入口にすると、親個人を責めるようなニュアンスを避けられる。

ポイント3:「もしも」ではなく「念のため」という言葉を使う

「もしお父さんに何かあったら」ではなく、「念のため、みんなで共有しておきたい」という言い方に変えるだけで、受け取る側の印象は大きく変わる。

ポイント4:一度にすべてを聞き出そうとしない

お盆の滞在中に全項目を完璧に確認しようとすると、親も疲れてしまい、かえって心を閉ざしてしまう。今回は「口座と保険の話だけ」など、テーマを絞るほうがうまくいきやすい。

補足:距離の問題ではなく、気持ちの問題

コツを4つ並べておいて何だが、筆者自身がこれを実践できているかというと、まったくできていない。

筆者は親と同じ県内に住んでいる。しかも父の眼科の通院に付き添うため、2か月に一度は必ず顔を合わせている。つまり、お盆の帰省を待つ必要すらない。話を切り出す機会だけを見れば、いつでもある状態だ。

それでも、聞けていない話がある。内容によっては気まずさが先に立ち、「今日はやめておくか」と流してしまう。切り出せない理由は距離ではなく、気持ちのほうにあるのだと痛感している。

さらに情けないことに、過去に聞いた話も紙やメモに残していないため、いくつかは思い出せなくなっている。機会があっても、記録しなければ結局は残らない。

これは「お盆が話すチャンス」という本記事の前提と矛盾するようだが、そうではない。むしろ逆で、日常的に会えるからこそ「またいつでも聞ける」と後回しにできてしまう。お盆のように、改まって顔を合わせ、親族が揃い、家や墓の話が自然に出てくる場は、話を持ち出すための口実として非常に強い。「せっかく帰ってきたついでに」という前置きが使えるのは、帰省ならではの利点だ。

遠方に住んでいる読者からすれば「近くにいるなら簡単だろう」と思うかもしれない。しかし実際は、近くにいても切り出せない。だからこそ、会う頻度を増やすことより、「今回はこれを聞く」と先に決めておくことのほうが効く。

最低限確認しておきたい5つのこと

限られた帰省時間の中で優先すべき5項目を、チェックリスト形式でまとめた。

No.確認項目具体的に聞くこと
1銀行口座・証券口座どの金融機関に、どんな口座があるか。ネット銀行・ネット証券の有無
2保険生命保険・医療保険の加入状況、保険証券の保管場所、受取人の指定内容
3実家の登記・不動産名義は誰か、共有名義になっていないか、住宅ローンが残っていないか
4かかりつけ医・持病よく通っている病院、服用中の薬、緊急連絡先として誰を指定しているか
5エンディングノート書く意思があるか、すでに書いているか、どこに保管する予定か

ここで先に白状しておくと、筆者自身がこの5項目をどこまで把握できているかというと、答えは「ごく一部だけ」だ。

  • 銀行口座・証券口座 … 把握できていない
  • 保険 … 把握できていない
  • 実家の登記・不動産 … 実家は賃貸で、親名義の不動産はない(この項目だけは該当なし)
  • かかりつけ医・持病 … 一部だけ把握している
  • エンディングノート … 把握できていない

偉そうに5項目を挙げておきながら、少しでも押さえられているのは「かかりつけ医・持病」の1項目だけだ。登記の項目が引っかからずに済んでいるのも、把握できているからではなく、実家が賃貸でそもそも該当しないというだけの話である。同じ県内に住み、2か月に一度は顔を合わせていても、この状態だ。

裏を返せば、この5項目は「全部埋めなければ意味がない」ものではない。ゼロが1つ埋まるだけでも、いざという時に家族が探し回る時間は確実に減る。読者のみなさんも、いま何も把握できていなくても引け目に感じる必要はない。今年のお盆で1つ増えれば十分だ。

1. 銀行口座・証券口座

「通帳を全部見せて」と言う必要はない。「どこの銀行を使っているか」「ネットバンキングやネット証券は使っているか」というリストさえ把握できれば、いざという時の手続きが大きく楽になる。近年は紙の通帳を発行しないネット銀行・ネット証券の利用者も増えており、家族が存在自体を知らないと発見が非常に困難になる点に注意したい。

2. 保険

生命保険は「誰が受取人になっているか」によって、相続時の扱いが大きく変わる重要な情報だ。保険証券がどこに保管されているか、担当の保険代理店や営業担当者の連絡先が分かるかどうかも確認しておきたい。

3. 実家の登記・不動産

実家の名義が親単独のものか、祖父母の代からの共有名義のままになっていないかは、相続の際に思わぬトラブルの火種になりやすい。古い不動産ほど、名義変更(相続登記)が何十年も放置されているケースがある。

とくに注意したいのが、2024年4月1日に施行された相続登記の義務化だ。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をする義務があり、これは施行日より前に発生していた相続にも適用される。その場合は、施行日(2024年4月1日)と「相続を知った日」のいずれか遅い方から3年以内が期限となる。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になる可能性もあるため、祖父母の代から名義変更をしないまま放置している実家がある場合は、お盆のタイミングで一度状況を確認しておきたい。

4. かかりつけ医・持病

お金の話ではないが、介護や急病の際に必要になる情報として合わせて確認しておきたい。かかりつけの病院、常用している薬、アレルギーの有無などは、離れて暮らす家族ほど把握できていないことが多い。

筆者が「一部は把握している」と言えるのは、この項目だけだ。父は目が良くないため、2か月に一度、眼科の検査に付き添っている。どこに通っていて、どのくらいの周期で検査を受けているのかは、一緒に行っているので自然と頭に入る。

一方、母についてはあいまいなままだ。過去に手術を経験しており、今も定期的に総合病院へ通っているはずで、常用している薬もあるはずだ――と、すべてが「はず」で止まっている。付き添ったことがない、ただそれだけの違いで、把握度がここまで変わる。

同じ「親」でも、一緒に病院へ行っているかどうかで情報の解像度はまったく違う。そしてこの差は、意識していなければ誰にでも起きる。付き添っている側の親については分かった気になり、そうでない側の親については想像で埋めてしまうからだ。まずは「父と母、それぞれについて自分は何を知らないのか」を分けて書き出してみるだけでも、確認すべきことがはっきりする。

5. エンディングノート

「遺言書を書いて」といきなり頼むとハードルが高いが、「エンディングノート」という市販のノートであれば、親自身も気軽に取り組みやすい。銀行口座、保険、不動産、葬儀の希望などを自分のペースで書き溜めてもらう形にすると、心理的な抵抗も少なくなる。「一緒に買ってこようか」と、帰省の際に文具店で購入するところから誘ってみるのも一つの方法だ。

筆者自身は、まだ親にエンディングノートを勧めるところまでは至っていない。まずは自分用のノートを一冊購入し、実際に書いてみた感想を親に話すところから始めようと考えている。いきなり「書いてほしい」と勧めるよりも、自分がやってみた実感を伝えるほうが、親にとっても自然に受け止めやすいはずだ。

なお最近は、サブスクやネット銀行、SNSアカウントなど「紙のノートには書ききれない資産」も増えている。この整理の仕方は「デジタル終活」が今すぐ必要な理由で詳しくまとめているので、自分用のノートを作るときの参考にしてほしい。

話し合いのあとにやっておきたいこと

せっかく聞き出した情報も、記録せずに忘れてしまっては意味がない。帰省中、もしくは帰宅後すぐに、聞いた内容を簡単なメモにまとめておくことをおすすめする。兄弟姉妹がいる場合は、その内容を共有しておくと、後々「言った言わない」のトラブルを防げる。

これを強くおすすめするのは、筆者がまさにできていない側だからだ。前述のとおり、せっかく聞いた話も紙やメモに残さなかったせいで、いくつかは思い出せなくなっている。話を切り出す勇気より、聞いたあとの5分のメモのほうが、実は難易度が低くて効果が大きい。

また、一度で全項目を聞き出せなくても問題ない。お盆・年末年始・誕生日など、家族が集まるタイミングごとに少しずつ更新していく「継続的な確認」という意識を持つことが、結果的に一番負担が少なく、確実な方法だ。

まとめ

親と「お金の話」をすることは、決して縁起の悪いことでも、親を疑うことでもない。むしろ、親自身の老後の安心と、残される家族の負担軽減の両方につながる、前向きな準備だ。

2026年のお盆休みは8月13日から16日。家族が顔を揃えるこの機会に、「口座」「保険」「登記」「かかりつけ医」「エンディングノート」という5つのテーマから、まずは1つでも良いので話題にしてみてほしい。完璧を目指さず、「毎年少しずつ確認していく」というスタンスで臨むことが、長続きさせるコツになる。

なお、この記事は一般的な考え方の整理と筆者個人の実感の紹介を目的としたものであり、特定の手続きや対応を推奨するものではない。相続登記など記事中で触れた制度の内容は今後変更される可能性があるため、最新の情報は法務局や金融機関などの公式情報で確認し、実際の対応は必要に応じて専門家に相談してほしい。


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