給与明細の控除欄に「厚生年金」あるいは「厚年」という行があります。その額を決めているのが標準報酬月額で、社会保険ではこの一つの数字が厚生年金保険料も健康保険料も決めています。

会社には毎年「標準報酬月額決定通知書」が届きますが、社員一人ひとりに配られるとは限りません。私の場合も手元に通知書はなく、給与明細のどこにも標準報酬月額そのものは書かれていません。

ここで多くの人が「確かめようがない」と諦めます。諦める必要はありません。明細の厚生年金保険料の額さえあれば、標準報酬月額は割り算ひとつで出せます。 実際に私も去年と今年の明細で計算してみて、自分の等級が2つ上がっていたことに気づきました。


控除額を知らせることは、法律で決まっている

厚生年金保険法第84条に、こう書かれています(出典:e-Gov法令検索「厚生年金保険法」)。

  • 第1項:事業主は、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料を報酬から控除することができる
  • 第3項:保険料を控除したときは、計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない

第3項が義務づけているのは「控除額を知らせること」であって、給与明細という様式で書けとまでは決めていません。ただ実際には、多くの会社がこの通知を給与明細のなかで済ませています。だから明細に厚生年金保険料の額が載っている、というのが順序です。

そして第1項が「被保険者の負担すべき」と言うとおり、そこに載っている額は会社と折半したあとの本人負担分です。逆算の材料は、すでに全員が持っています。


逆算の式は、ひとつだけ

標準報酬月額 = 給与明細の厚生年金保険料 ÷ 0.0915

なぜ0.0915なのか。理由は2つです。

  1. 厚生年金の保険料率は18.3%で全国一律。平成29年9月を最後に引き上げが終わり、以降ずっと固定
  2. これを会社と半分ずつ負担するので、本人負担は 18.3% ÷ 2 = 9.15%

(出典:日本年金機構「厚生年金保険料額表」)

都道府県でも勤務先でも変わりません。だから式が一本で済みます。


【要注意】0.183で割ると、間違いに気づけません

この記事でいちばん伝えたいところです。割る数を間違えて0.183(折半する前の率)にすると、答えは正しい標準報酬月額のちょうど半分になります。やっかいなのは、その半分の数字も等級表に実在していることが多いことです(全32等級のうち8等級がこれに該当します)。

計算出てくる答え判定
正31,110 ÷ 0.0915340,000円(第21等級)正解
誤31,110 ÷ 0.183170,000円(第11等級)表に実在するので気づけない

170,000円は第11等級としてきちんと表に載っているので、「こんな数字は表にない」と気づくきっかけがありません。割る数は0.0915。18.3%ではありません。 ここさえ間違えなければ、あとは電卓で終わります。


給与明細から逆算する4ステップ

  1. 賞与が出ていない月の明細を用意する。賞与月は厚生年金保険料の欄が「毎月の分+賞与の分」で膨らんでいます
  2. 「厚生年金」「厚年」の欄の金額をメモする。健康保険料の欄ではありません
  3. その金額を 0.0915 で割る(0.183ではありません)
  4. 出た数字を等級表に当てる。厚生年金は第1等級(88,000円)から第32等級(650,000円)までの32等級です

等級表は日本年金機構の保険料額表で確認できます。

実際にやってみる

明細の厚生年金保険料が31,110円だった場合。

31,110 ÷ 0.0915 = 340,000
→ 標準報酬月額 340,000円 / 厚生年金 第21等級

保険料額表の第21等級の行は「全額 62,220円/折半額 31,110円」。明細の額と一致します。20,130円なら 220,000円・第15等級です。

標準報酬月額はすべて2,000円の倍数なので、答えは必ずきれいな数字になります(9.15%=183/2000で端数が出ません)。「338,742円」のような答えが出たら、計算か読み取りが合っていません。


なぜ健康保険料ではなく、厚生年金保険料を使うのか

同じ標準報酬月額から計算されるのに、健康保険料を使わない理由があります。

厚生年金保険料健康保険料
保険料率18.3%・全国一律・固定協会けんぽは都道府県支部ごと、健保組合は組合ごと
負担割合完全に折半健保組合は会社が半分以上のことがある
上乗せなし40〜64歳は介護保険料が乗る/令和8年4月分から子ども・子育て支援金0.23%も乗る
端数出ない出る(50銭以下切り捨て、50銭超切り上げ)

(出典:e-Gov法令検索「健康保険法」第160条・第161条、協会けんぽ「協会けんぽの介護保険料率について」)

健康保険料から逆算するには、「協会けんぽか組合健保か」「どの都道府県か」「40歳以上か」「端数はどちらに丸められたか」の4つを確定させないと式が立ちません。協会けんぽの料率は都道府県支部ごとに違い、令和8年度は最も低い新潟県の9.21%から最も高い佐賀県の10.55%まで開きがあります(出典:協会けんぽ「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」)。厚生年金なら、誰がどこで働いていても18.3%の折半です。

さらにややこしいのが、令和8年度から始まった子ども・子育て支援金です。全国一律0.23%が標準報酬月額に掛けられ、その半分(0.115%)が健康保険料と一緒に本人負担分として給与から控除されます(出典:こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」)。

名前がよく似た「子ども・子育て拠出金」(0.36%)とは別の制度なので混同しないでください。拠出金は厚生年金保険料と一緒に徴収されますが、負担するのは事業主だけで、従業員の給与から天引きされることはありません。日本年金機構も「従来より事業主のみが負担する『子ども・子育て拠出金』」と説明しています(出典:日本年金機構「日本年金機構からのお知らせ 令和8年3月号」)。支援金は健康保険料側、拠出金は厚生年金保険料側というように、そもそも乗っかる保険料が違います。

なお等級の番号は制度ごとに違います。同じ340,000円でも厚生年金は21等級、健康保険は24等級。問い合わせるときは、どちらの話か添えてください。


この方法が使えない4つのケース

手順だけ渡して失敗させるのは不親切なので、先に確認してください。

ケースどうなるか
厚生年金保険料が59,475円ちょうど上限(第32等級・650,000円)に張り付いています。「報酬月額が635,000円以上」としかわからず、実額は出せません
勤務先が厚生年金基金に加入保険料率が18.3%ではなく13.3%〜15.9%になり、式が合いません
賞与が出た月の明細を使った厚生年金の欄に賞与分の保険料が上乗せされ、実際より大きな数字が出ます
答えが半端な数字2,000円の倍数になるはずなので、どこかが合っていません

(出典:日本年金機構「厚生年金保険料額表」の注記、日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)

この記事は会社員(厚生年金保険の被保険者)を対象にしています。 公務員・私学教職員は2015年の被用者年金一元化で厚生年金に統一されていますが、共済組合ごとの保険料率が18.3%と異なる場合があり、この記事の式がそのまま使えるかは未確認です。該当する方は、ご自身の共済組合に保険料率を確認してください。

なお厚生年金の上限は、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ段階的に引き上げられます(出典:厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」)。


去年の明細と比べたら、2等級上がっていた

自分の等級がわかったら、去年の同じ月の明細でも同じ計算をしてみてください。私もやってみました。

去年10月の明細今年10月の明細
厚生年金保険料29,280円32,940円
÷ 0.0915320,000円360,000円
厚生年金の等級第20等級第22等級

2等級上がっていました。 厚生年金保険料は月3,660円の増加です。

同じ標準報酬月額から計算される健康保険料も、7月支給と8月支給の明細を比べると、月2,000円あまり増えていました。2つを合わせると月約5,700円、1年で約6万8,000円、手取りが減る計算です。

ところが、上がっていたのは10月ではなく8月だった

毎年の見直しといえば定時決定です。4月・5月・6月に受けた報酬の平均から標準報酬月額が決め直され、その結果が9月から翌年8月まで適用されます(出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」)。

第84条第1項のとおり、法律上の原則は前月分を引く翌月控除です。私の勤務先も翌月控除なので、定時決定で変わるなら、9月分の保険料が引かれる10月支給の明細から変わるはずでした。

ところが明細を並べ直すと、32,940円に増えていたのは8月支給の明細からでした。翌月控除で8月に引かれるのは7月分の保険料です。つまり私の標準報酬月額は、定時決定を待たずに7月分から変わっていたことになります。

8月から上がっていた理由は「随時改定」とみられる

定時決定とは別に、年の途中で標準報酬月額が変わる仕組みがあります。随時改定です。日本年金機構は、次の3つをすべて満たしたときに行うとしています(出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」)。

  1. 昇給や降給などで、固定的賃金(基本給や決まった手当など、額や率が決まっている賃金)が変わった
  2. 変わった月から3か月間の報酬の平均で出した標準報酬月額が、それまでと比べて2等級以上違う
  3. その3か月とも、支払基礎日数が17日以上ある

改定されるのは、変わった給与を初めて受けた月から数えて4か月目です。機構のページには「4月に支払われる給与に変動があった場合、7月」という例がそのまま載っています。

私の場合、今年は2つの変化が重なっていました。

  • 4月に基本給が約9,000円上がった(昇給)
  • 3月から日勤だけの勤務が2交代勤務に変わり、深夜手当が付くようになった

基本給の上がり幅だけでは2等級には届きません。ただ、3か月の平均には深夜手当のような毎月変わる手当も入ります。昇給も、深夜手当が新しく付いたことも、随時改定のきっかけになり得ます。そのうえで4〜6月の平均が深夜手当込みで上がり、7月分から2等級上がった、という流れです。会社が出した届出を見たわけではありませんが、明細の数字はこの流れと合います。

もう一つ、10月の明細が8月と同じ32,940円のまま動かなかった理由もここにあります。7月に改定される人は、その年の定時決定の届出で報酬月額を出さなくてよいことになっています(出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」)。そして7月以降に改定された標準報酬月額は、翌年の8月まで使われます(出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」)。私の36万円も、来年8月分まで続く見込みです。

明細を比べるなら、7月以降をまとめて並べる

「標準報酬月額が変わるのは9月分から」とだけ覚えていると、私のように10月の明細だけを見て「変わっていない」と思い込みかねません。

  • 春に昇給があった、手当が増えた、勤務形態が変わった、という年は随時改定の可能性があります。逆に、残業や夜勤の回数が増えただけでは、随時改定のきっかけにはなりません
  • 翌月控除の会社なら、7月から10月までの明細を並べると、7月支給の明細を基準にして、7〜9月分の随時改定と9月分の定時決定のどちらの変化も拾えます
  • 当月控除の会社なら、ひと月ずつ前にずらしてください

ちなみに定時決定でも随時改定でも、残業代などの手当は報酬に含まれます。日本年金機構も、標準報酬月額のもとになる報酬を「基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与」と説明しています(出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。「4〜6月に残業すると1年間保険料が高い」と言われるのはこのためです。私の場合は、定時決定ではなく随時改定の3か月平均に深夜手当が入り、等級を押し上げました。


最後は、ねんきんネットで答え合わせ

逆算は「その場で確かめられる方法」であって、公式の記録ではありません。正確な標準報酬月額は日本年金機構のねんきんネットで確認できます(出典:日本年金機構「『ねんきんネット』による年金記録の確認」)。年金事務所の窓口や、勤務先の人事・総務に聞く手も。

おすすめは、①給与明細で逆算してあたりをつける → ②ねんきんネットで答え合わせの順番。先に自分で数字を出しておくと、記録を見たときの理解がまるで違います。


まとめ

  • 標準報酬月額は 明細の厚生年金保険料 ÷ 0.0915
  • 0.183で割らない。 答えが半分になり、その数字も等級表に実在していることが多いため気づきにくい
  • 使うのは賞与のない月の明細。厚生年金の欄であって健康保険の欄ではない
  • 答えは必ず2,000円の倍数。半端な数字が出たらどこかが違う
  • 去年と比べるなら、(翌月控除なら)7月から10月の明細をまとめて。昇給や勤務形態の変化があった年は、定時決定より先に随時改定で変わっていることがある
  • 最後はねんきんネットで答え合わせを

通知書が手元になくても、明細の一行から自分の立ち位置は確かめられます。まずは電卓を一回叩いてみてください。


参考資料


あわせて読みたい