SNSを開けば「個別株で資産3倍」「一瞬で億り人」といった景気のいい言葉が並んでいます。それを見て「コツコツ積み立てている自分が馬鹿らしい」「全財産を投資に回すべきでは」と焦りを感じたことはないでしょうか。

筆者は2025年12月から新NISAで毎月10万円ずつ全世界株式(オルカン)を積み立てていますが、この金額と方針に落ち着くまでに考えたのは「どの商品を買うか」ではありませんでした。投資の成績を左右するのは、商品選びの前に整える「土台」の方だと考えたからです。

この記事では、投資を始める前(あるいは金額を増やす前)に整えておきたい3つの土台——リスク許容度・自己投資とのバランス・稼ぐ力——を1本にまとめて解説します。


土台1:リスク許容度——「いくらまでの損なら平気か」を先に決める

リスクとは「危険」ではなく「振れ幅」のこと

投資の世界でいうリスクとは「リターンの振れ幅」を指します。そしてリスク許容度とは、投資でどれだけマイナスが出ても精神的・経済的に耐えられるかの度合いです。

同じ300万円を運用していても、「1円でも減るのは耐えられない」人と「100万円減っても将来戻るなら平気」という人がいます。この耐えられる限界を超えた金額を投資に回すと、暴落が来たときに冷静な判断ができなくなります。

株式インデックスであっても、年によって大きなプラスにも大きなマイナスにも振れるのが普通です。「最悪の年に自分の資産がどれくらい減り得るか」「そのとき自分は耐えられるか」。この2点を把握しないままの投資は、資産運用ではなくギャンブルに近づいてしまいます。

許容度を決める要素は人によって違う

リスク許容度は、主に次の要素で決まります。

要素許容度が高くなりやすい人
年齢若く、失敗しても取り返す時間がある
家族構成独身で自分の判断だけでリスクを取れる
収入の安定性収入が安定した職業に就いている
保有資産生活防衛資金とは別に余裕資金がある
投資経験下落相場をくぐり抜けた経験がある
性格値動きを気にしすぎない

大切なのは、他人と比べないことです。SNSで「何百万円儲かった」という報告を見ても、その人とあなたでは取れるリスクの器がまったく違います。山に登る人と海に行く人が装備を比べても意味がないのと同じです。

許容度を超えた人の典型的な失敗

許容度を超えた投資の怖さは、暴落時に表れます。資産が2割減り、SNSに悲観的な声が溢れる中でパニックになり、最も安い時期に投げ売りしてしまう——。歴史的には暴落後に相場が回復する局面も多く、投げ売りした人は「今のお金」だけでなく「将来得られたはずの回復分」まで手放すことになりかねません。

筆者自身も、積み立てを始めて間もない頃に含み損を抱えた場面がありました。それでも慌てずに済んだのは、「これは20年使わない老後資金」と最初に決め、含み益が出ても売らずに積み立てを続け、70歳から定率で取り崩すと出口まで先に決めていたからです。金額も、生活費や急な出費に手を付けずに済む範囲に収めています。

筆者が投資に回しているのは、生活防衛資金とは別に確保した余裕資金です。そのため、たとえ暴落で3割ほど下がっても、生活そのものには影響しない範囲に金額を抑えています。実際、今年の3月下旬から4月上旬にかけて相場が5%程度下がった局面もありましたが、慌てず淡々と積み立てを続けられました。

夜も眠れないほど相場が気になるなら、それは明らかにリスクの取りすぎです。普段どおりの生活を落ち着いて送れる金額に抑える——これがリスク許容度の実践的な目安になります。


土台2:自己投資とのバランス——種銭が小さいうちは「自分」への投資が効く

金融投資のリターンには天井がある

投資には大きく2種類あります。株式や投資信託などの金融投資と、スキルアップ・転職・副業などの自己投資です。

金融投資で現実的に期待できるリターンは、インデックス投資で年数%程度と言われます。ここで冷静に考えたいのは、リターンは元本に比例するという当たり前の事実です。手元に10万円しかない人が年5%で運用できても、増えるのは年5,000円。一方、すでに大きな資産がある人には同じ年5%が大きな金額になります。つまり金融投資の効果は「すでにお金がある人」ほど大きく、種銭が小さい段階では効果が薄いのです。

若いうちほど自己投資の効率がいい

種銭が小さいうちに効くのが自己投資です。スキルを磨いて年収が上がれば、その差額は毎年積み上がり、増えた収入をさらに金融投資に回せます。資産形成のスピードを決めるのは、運用利回りより「毎月いくら入金できるか」である場面が多いのです。

ただし、自己投資を万能視するのも危険です。学んだ分野に市場価値がなければ経済的リターンにはつながらず、向き不向きや時代の巡り合わせにも左右されます。自己投資も「投資」である以上、リスクがあることは忘れないようにしましょう。

「投資のために今を犠牲にする」のは本末転倒

もう一つの落とし穴が、将来のために今の生活を極限まで切り詰める「全振り」です。20〜30代の貴重な時間をすべて我慢に充てて資産だけを積み上げても、それを楽しむ体力や人間関係が失われていては意味がありません。年間の貯蓄目標を守れる範囲であれば、趣味や思い出づくりにお金を使うことは資産形成の敵ではありません。貯めながら使うバランスこそが、長く続けるコツです。

筆者がこれまでで一番「やってよかった」と感じている自己投資は、FP(ファイナンシャル・プランニング)の勉強です。直接の収入や仕事に結びついたわけではありませんが、お金との付き合い方を考えるうえで、生活していくうえでの確かな土台になっていると感じています。お金に興味がある方には、ぜひ一度触れてみてほしい分野です。


土台3:稼ぐ力——入金力を最大化する順番を間違えない

入金力は資産形成の「最後のピース」

家計の支出を見直し、余った資金を積み立てる体制ができたら、資産形成のスピードを決める最後のピースは**稼ぐ力(入金力)**です。仮に年5%で20年運用できた場合、毎月の積立額によって到達点は大きく変わります。

毎月の積立額20年後のイメージ
3万円約1,200万円
5万円約2,000万円
10万円約4,100万円

※将来の運用成績を保証するものではなく、一定利回りを仮定した概算です。

筆者も「売り時を当てる工夫」より「入金力を上げる工夫と支出の見直し」に時間を使う方針です。市場は自分でコントロールできませんが、収入と支出は自分の努力で変えられるからです。実際、保険と通信費の見直しで固定費を月2万円ほど圧縮し、その分を積み立てに回せるようになりました。

副業より先に「転職」を検討する理由

稼ぐ力を上げる手段としてまず副業が語られがちですが、順番としては転職の検討が先です。理由は3つあります。

  1. 成果が出るのが早い——副業でゼロから月数万円を稼ぐには新しいスキルと時間が必要ですが、転職には「今のスキルのまま、給与を市場相場に合わせる」という即効性のあるルートがあります。自分の年収が市場相場より低く抑えられているケースも少なくないと言われます。
  2. 収入の安定性が違う——給与は生活を支える基本、副業収入は変動するボーナスのようなものです。安定した基本給が上がれば、積立を淡々と続けられ、心の余裕を持って挑戦もできます。
  3. 転職ノウハウは一生モノ——自分のスキルが市場でどう評価されるかを知る経験は、会社に依存しないキャリア形成の武器になります。転職しないと決めるにしても、市場価値を知ってから決める方が合理的です。

今の会社や年収に十分満足しているなら、そこで初めて副業に本腰を入れればよい、という順番です。

💬 筆者の体験談

私自身、キャリアは回り道の連続でした。20歳から一人暮らしをしながら新聞配達の仕事に就き、その後は産業用機械メーカーで機械加工の仕事へ。20代はお金がまったく貯まりませんでした。28歳のときには約1年半のフリーター期間があり、コツコツ貯めていた100万円ほどの貯金も底をつきました。

転機は29歳。今の会社(製造業)に就職できたことです。安定した給与という土台ができて初めて、資産形成は「始まる」——これは理屈ではなく、貯金ゼロから積み上げ直した私の実感です。投資のテクニックよりも先に、収入の土台。この順番だけは、回り道をした人間として自信を持って言えます。

転職を真剣に検討したこともあります。20年ほど前からリクナビに登録して応募や面接をしましたし、昨年も、レジュメを更新して応募しています。結果は、面接には至りませんでした。


まとめ:土台が整えば、あとは「淡々と」でいい

3つの土台を整理します。

  1. リスク許容度——いくらまでの損なら普段どおり暮らせるかを先に決め、その範囲でしか投資しない
  2. 自己投資とのバランス——種銭が小さいうちは稼ぐ力を高める投資が効く。ただし全振りせず、今の生活も楽しむ
  3. 稼ぐ力——支出の見直しとあわせて入金力を高める。手段は副業より先に転職の検討から

筆者の投資は「老後資金と決めて、許容度の範囲で月10万円をオルカンに積み立て、売らずに70歳から取り崩す」というシンプルなものです。土台を先に固めたことで、日々の値動きに一喜一憂せず、エネルギーを収入と支出の改善に向けられています。

なお、この記事は一般的な考え方の整理と筆者個人の方針の紹介を目的としたものであり、特定の商品や売買を推奨するものではありません。実際の投資判断は、ご自身の状況を踏まえ、必要に応じて金融機関や専門家にご相談ください。


あわせて読みたい